異世界転生…それは、ちょっとした憧れや期待もあった。
だから、未知の状況に陥っても気が動転したりしなかった。
違う世界へ飛ばされて、冒険、チート能力やハーレムそんな淡い期待を持っていた。
今までの生活は無くなっちゃうけど、仕方ないよね?異世界転生だし…くらいの感覚でいたのだ。
そのような甘い考えは、目に映る現実を見れば頭から消し飛んでいく。
「どういうことだ、私の部屋じゃないか」
部屋を見渡すと、光に包まれた後と相違は無い。散らばったコスプレ衣装に、普段から就寝に使用しているベッド、畳の匂い、そして等身大ドール。
「うお!?tamiでっか!」
部屋を見渡してる最中に、自分が等身大ドールの服の隙間から出てきたのだと気づいた。
そして、部屋のスケール感にも気づき始めた。
「私が、小さくなったの、か」
あの光に呑まれ、身体が縮んでしまったのだ、10分の1くらいに。
手の指の感覚が戻らない違和感から、自分の身体を検めることにする。
関節の無い指、黄色い腕、青いジーンズにブーツ。
見覚えがあった、この容姿はまさに。
「身体がフィギュアになっている!?」

眩暈がした…気がした、しかし身体はフィギュアになっているので体調に変化は無い。
心臓も無いので、心拍数が上がったりはしない。
その分、冷静になれた。
小さくなったが、身体は動く。スマホやパソコンを使って、助けを呼べば?
しかし、助けを呼んでどうなるのか。そもそも、スマホはこの手じゃ押せないだろうし、パソコンもリビングの机の上にあるのだ。そこまでどうやって行くというのだ。
途方に暮れた。
いつかは、誰かが来るかもしれない。でも、事情をどう話せば良いのか分からない。
心霊現象と思われて、供養されて燃やされるかもしれない。
それは最悪のシナリオだった。
何とかしなければならない。
やはり、リビングのパソコンを使って外部と連絡を取る必要がある。
ベッドを滑り降りて、リビングへ向かう。
パソコンは机の上だ、たったの高さ50㎝のローデスクの上にキーボードが置いてある。
しかし今は、たったの20㎝程度の身長で指の関節も曲がらないので掴んで登ることも出来ないのだ。
ジャンプして届くか試したが、ぎりぎり届かない。何度も試した。
近くに踏み台になるものも無い、私は奇麗好きなのだ。
奇麗好きが災いした。
「くそがっ!何か無いのか、何か…」
憔悴していた、眠くは無いがベッドで横になりたかった。
寝室へ移動して、ベッドに横になろうとしたがよじ登ることが出来ない。
「ベッドで横になることも出来ないのか」
仕方なく、畳の上に大の字になることにした。
ベッドに横たわっている等身大ドールのtamiを横目に見る。
「なんで、tamiじゃなくてよりにもよってこのフィギュアなんだ」
tamiに転生?であったなら、色々何とかなったばずだった。
身長は136㎝の小柄ではあるが、少なくともパソコンを使用して外部との連絡を取ることが出来たはずだ。
生きていることさえ周りが、認知してくれているならば、警察や消防といった人間が来ることは無い。やはり転生してしまった状況が他者に受け入れられるとは思えないのだ。
あの声、私をこんな姿にした張本人を見つけ出すまで諦めることが出来ない。
何が「救うのです、世界を」だ!
そもそもこの世界は、滅亡の危機に瀕してるわけでも無いし。
もしかして、事故なのでは?
「こ、こんなはずじゃ…、畜生ッ!持ってかれちまった!」
漫画の名台詞を一人虚しく吐いて捨てる。
「うるさいっ!」
突如、自分以外誰も居ない筈の部屋に自分以外の怒鳴り声が響く。

to be continued?