私以外の誰も居ないこの部屋に、私以外の誰かの声が確かに聞こえた。
「うるさい」
私は怒鳴られたのだ、何者かの声によって。
「誰だ!誰かいるのか!?」
問うた答えは返ってこない。幻聴か?
否、幻聴では無い筈。私は藁にも縋る思いで再び声を発する。
「誰か居るのか、居るなら返事をしてくれ!頼む!」
誰か居るなら返事をして欲しいと強く念じて声を発した。
「う~る~さ~い!何なの!?」
返ってきた声は幼い女のものだ。
声の発生元は等身大ドールからであった。
「まさか、tami…なのか?」
「tami…ああ、私の名前ね———そうね」
僥倖である。等身大ドールであるtamiが動けるのであれば、何とかやりようがある。
「tamiよ、頼みがある。私を持ち上げてパソコンの前まで連れて行ってくれ」
目の前で横たわる等身大ドールに向かって頼む。何で喋れるとか、そんなものは二の次だ。
「嫌よ」
断られた、あっさりと。
「お、おい!?私はお前の所有者だぞ?」
「何言ってんの?あんたがマスターなわけ無いでしょ?」
そうか、姿か!?でも、後ろから話しかけているので見えていないと思っているのだが。
「こんな姿になってしまったが、私は君の所有者だ、マスターなんだ」
私は、かくかくしかじかをtamiに説明した。
「そんな与太話を信じられると思ってるの?」
人形が喋ること自体が与太話ではないか?そんな疑問は頭の隅に追いやり私は交渉を続ける。
「頼む、私を運んでくれ」
沈黙が流れた、数秒ほどだったと思う。
「無理よ、動けないもの」
嫌よから無理よに変わってしまった。動けない?
「動けないのか?私は動けているが?」
人形は動けるし、喋れるという常識に覆ったばかりだが?
「人形は喋れないし、動かないのよ」
どうやら、私の常識は再度覆ったみたいだ。
「あんた、何で動けるのよ?喋れるのだっておかしいのに」
tamiは喋っているわけではなく、念のようなもので人形同士のみでの会話が出来るだけとのこと。
私は、喋っている。空気を振動させてこの世界に音を発している。
困った、これではtamiはただの喋り相手にしかならない。
諦められない、終わりたくない。
「動いてくれtami」
「無理よ、諦めなさい」
諦めたくない。
こんな事故みたいな形で、生涯の幕を下ろしたくないのだ。Amazonで買った、コスプレ衣装の受取もまだだ。今日のはずだった。急がなくてはならない。
世界の声が聞こえた気がする。
「我が名、黒にんにくケーキのもとに、動けtami!」
その時、人形の私の身体が輝き出して拡がり、tamiの身体を覆う。
一瞬の出来事であったが。
「何が起こったの?それに…私…」

tamiは動いていた、手も足も頭も、声も空気を振動させて世界に音を鳴らせる。
「私…動いてる?嘘…」
世界の声が聞こえた。
力を行使せよと。そして…
「スキル:人形使い」
to be continued?
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